蘇東坡(蘇軾)詩 〔一〕
蘇東坡の詩
浣溪沙 , 和孔密州五絶東欄梨花 , 春夜 , 題西林壁 , 飮湖上初晴後雨
蘇東坡ものがたり
蘇軾・東坡:
北宋の文人で、詩は宋代第一と称された。官僚。
1036年(景祐三年)〜1101年(建中靖國元年)
眉州眉山の出身。字は子膽、号は東坡。蘇洵の子、蘇轍の兄。嘉祐2年(1057)の進士。
夙に将来を嘱望され、英宗期に判登聞鼓院、直史館とされたが、神宗期に新法に猛反対した。新法を進めたのは、王安石、反対派は司馬光であった。王安石派の改革に蘇東坡は地方に左遷された。いわゆる州の副知事を歴任した。
1079年には詩文中で時政を誹謗したとして黄州に配流された。元佑年間には翰林学士・侍読とされ、募役法の廃止に反対して知杭州に転出し、1092年に礼部尚書に復したが、紹聖以降は恵州ついで瓊州(海南島)に流され、常州で客死した。
文人としても著名で、父・弟とともに“三蘇”と称され、“大蘇”とも呼ばれた。線の太い詩は宋
代文学の最高峰とされ、『赤壁賦』は黄州配流時に創られた傑作。唐宋八大家の1人。
杭州時代の西湖の蘇堤や豚肉は上流階級は食べなかったものをメジャーな食とした東坡肉など後世に残している。
北宋・蘇軾 Blog選集
ID |
詩詞歌 題 |
初句 |
記事 |
@ |
浣溪沙 |
西塞山邊白鷺飛 |
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A |
和孔密州五絶 東欄梨花 |
梨花淡白柳深 |
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B |
春夜 |
春宵一刻値千金 |
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C |
題西林壁 |
看成嶺側成峰 |
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D |
飮湖上初晴後雨 |
水光瀲艶晴方好 |
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E |
澄邁驛通潮閣餘生欲老海南村 |
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F |
六月二十七日望湖樓醉書K雲翻墨未遮山 |
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G |
和陶飮酒我不如陶生 |
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H |
念奴嬌 |
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I |
江城子 |
密州出猟 |
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J |
水調歌頭 |
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K |
水調歌頭 |
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L |
江城子 |
乙卯正月二十日夜記夢 |
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M |
食猪肉 |
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15 |
溪陰堂白水滿時雙鷺下 |
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16 |
食茘枝羅浮山下四時春 |
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17 |
前赤壁賦壬戌之秋 |
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18 |
書李世南所畫秋景野水參差落漲痕 |
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19 |
廬山煙雨廬山煙雨浙江潮 |
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20 |
和文與可洋川園池望雲樓 |
陰晴朝 |
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21 |
惠崇春江曉景其一 |
竹外桃花三兩枝 |
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22 |
惠崇春江曉景其二 |
兩兩歸鴻欲破群 |
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23 |
淮上早發 |
澹月傾雲畫角哀 |
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24 |
初冬作贈劉景文 |
荷盡已無フ雨蓋 |
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25 |
吉寺賞牡丹 |
人老簪花不自羞 |
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@浣溪沙
新秋
風卷珠簾自上鈎。蕭蕭亂葉報新秋。獨攜纖手上高樓。
缺月向人舒窈窕,三星當?照綢繆。香生霧?見纖柔。
又
游?水清泉寺,寺臨蘭溪,溪水西流。
山下蘭芽短浸溪,松間沙路淨無泥,蕭蕭暮雨子規啼。
誰道人生無再少?門前流水尚能西,休將白髮唱??。
又
漁父
西塞山邊白鷺飛,散花洲外片帆微。桃花流水厥魚肥。
自庇一身青厥笠,相隨到處獄ェ衣。斜風細雨不須歸。
又
十二月二日,雨後微雪,太守徐君猷攜酒見過,坐上作《浣溪沙》三首。明日酒醒,雪大作,又作二首。
覆塊青青麥未蘇,江南雲葉暗隨車。臨皋煙景世間無。
雨?半收簷斷線,雪林初下瓦疏珠。歸來冰顆亂黏須。
又
前韻
醉夢醺醺曉未蘇,門前轆轆使君車。扶頭一盞怎生無。
廢圃寒蔬挑翠羽,小槽春酒凍真珠。清香細細嚼梅須。
又
前韻
雪裡餐氈例姓蘇,使君載酒為回車。天寒酒色轉頭無。
薦士已聞飛鶚表,報恩應不用蛇珠。醉中還許攬桓須。
又
再和前韻
半夜銀山上積蘇,朝來九陌帶隨車。濤江煙渚一時無。
空腹有詩衣有結,薪如桂米如珠。凍吟誰伴撚髭須。
又
前韻
萬頃風濤不記蘇,雪晴江上麥千車。但令人飽我愁無。
翠袖倚風?柳絮,絳唇得酒爛櫻珠。尊前呵手鑷霜須。
又
九月九日二首
珠檜絲杉冷欲霜,山城歌舞助淒涼。且餐山色飲湖光。
共挽朱?留半日,強揉青蕊作重陽。不知明日為誰?。
又
和前韻
霜鬢真堪插拒霜,哀弦危柱作伊涼。暫時流轉為風光。
未遣清尊空北海,莫因長笛賦山陽。金釵玉腕瀉鵝?。
又
有感
傅粉郎君又粉奴,莫教施粉與施朱。自然冰玉照香酥。
有客能為神女賦,恁君送與雪兒書。夢魂東去覓桑?。
又
詠橘
菊暗荷枯一夜霜,新苞漉t照林光。竹籬茅舍出青?。
香霧?(????)人驚半破,清泉流齒怯初嘗。??三日手猶香。
又
公守湖。辛未上元日,作會於伽藍中。時長老法惠在座,時有獻剪伽花彩甚奇,謂有初春之興。因作二首,寄袁公濟
雪頷霜髯不自驚,更將剪綵發春榮。羞顏未醉已先?(??)。
莫唱??並白髮,且呼張友(丈)喚殷兄。有人歸去欲卿卿。
又
和前韻
料峭東風翠幕驚,雲何不飲對公榮。水晶盤瑩玉鱗?。
花影莫孤三夜月,朱顏未稱五年兄。翰林子墨主人卿。
又
徐門石潭謝雨道上作五首。
照日深紅暖見魚,連溪壕テ?藏烏。?童白叟聚??。
麋鹿逢人雖未慣,猿?聞鼓不須呼。歸家?與採桑姑。
又
旋抹紅妝看使君,三三五五棘籬門。相挨踏破?羅裙。
老幼扶攜收麥社,烏鳶翔舞賽神村。道逢醉叟臥?昏。
又
麻葉層?(????)葉光,誰家煮繭一村香。隔籬嬌語絡絲娘。
垂白杖藜抬醉眼,?青擣?(???)軟饑腸。問言豆葉幾時?。
又
??衣巾落棗花,村南村北響繰車。牛衣古柳賣?瓜。
酒困路長惟欲睡,日高人?漫思茶。敲門試問野人家。
又
軟草平莎過雨新,輕沙走馬路無塵。何時收拾?耕身。
日暖桑麻光似?,風來蒿艾氣如栫B使君元是此中人。
又
春情
道字嬌訛苦未成,未應春閣夢多情。朝來何事埼」傾。
彩索身輕長趁燕,紅窗睡重不聞鶯。困人天氣近清明。
又
菊節
縹緲危樓紫翠間,良辰樂事古難全。感時懷舊獨淒然。
璧月瓊枝空夜夜,菊花人貌自年年。不知來?與誰看。
又
春情
桃李溪邊駐畫輪,鷓鴣聲裡倒清尊。夕陽雖好近?昏。
香在衣裳妝在臂,水連芳草月連雲。幾時歸去不銷魂。
又
荷花
四面垂楊十裡荷。問君何處最花多。畫樓南畔夕陽和。
天氣乍涼人寂寞,光陰須得酒消磨。且來花裡聽笙歌。
又
贈閭丘朝儀,時還徐州。
一別姑蘇已四年。秋風南浦送歸船。畫簾重見水中仙。
雲鬢不須催我老,杏花依舊駐君顏。夜闌相對夢魂間。
又
有贈
惟見眉間一點?。詔書催發羽書忙。人教嬌?洗紅妝。
上殿有雲霄生羽翼,論兵齒?帶風霜,歸來衫袖有天香。
又
憶舊
長記鳴琴子賤堂。朱顏冴「映垂楊。如今秋鬢數莖霜。
聚散交遊如夢寐,升?閑事莫思量。仲卿終不避桐?。
又
春情
風壓輕雲貼水飛。乍晴池館燕爭泥。沈郎多病不勝衣。
沙上不聞鴻雁信。竹間時聽鷓鴣啼。此情惟有落花知。
又
公舊序雲:紹聖元年十月十三日,與程?令侯晉叔、歸安簿譚汲同遊大雲寺,野飲松下,設松?湯,作此?。
羅襪空飛洛浦塵,錦袍不見謫仙人。攜壺藉草亦天真。
玉粉輕?千?藥,雪花浮動萬家春。醉歸江路野梅新。
又
重九舊韻
白雪清詞出座間,愛君才器兩?全。異?風景卻依然。
可恨相逢能幾日,不知重會是何年。茱萸仔細更重看。
又
元豐七年十二月二十四日,從泗洲劉倩叔游南山。
細雨斜風作曉寒,淡煙疏柳媚晴灘。入淮清洛漸漫漫。
雪沫乳花浮午盞,蓼茸蒿筍試春盤。人間有味是清歡。
又
送梅庭老赴?州學官。
門外東風雪灑裾,山頭回首望三?。不應彈鋏為無魚。
上黨從來天下脊,先生元是古之儒。時平不用魯連書。
又
徐州藏春閣園中。
慚愧今年二麥豐,千畦細浪舞晴空。化工餘力染夭紅。
歸去山公應倒載,闌街拍手笑兒童。甚時名作錦樞ト。
又
同上
芍藥櫻桃兩鬥新,名園高會送芳辰。洛陽初夏廣陵春。
紅玉半開菩薩面,丹砂濃點柳枝唇。尊前還有個中人。
又
贈楚守田待制小鬟。
學畫鴉兒正妙年。陽城下蔡困嫣然。恁君莫唱短因?。
霧帳吹笙香??,霜庭按舞月娟娟。曲終紅袖落雙纏。
又
和前韻
一夢江湖費五年。歸來風物故依然。相逢一醉是前?。
遷客不應常?(???)?(???),使君為出小嬋娟。翠鬟聊著小詩纏。
又
端午
輕汗微微透碧?。明朝端午浴芳蘭。流香漲膩滿晴川。
彩線輕纏紅玉臂,小符斜掛拷_鬟。佳人相見一千年。
又
感舊
徐?能中酒聖賢,劉伶席地幕青天。潘郎白璧為誰連。
無可奈何新白髮,不如歸去舊青山。恨無人借買山錢。
又
自適
傾蓋相逢勝白頭,故山空複夢松楸。此心安處是菟裘。
賣劍買牛吾欲老,乞漿得酒更何求。願為同社宴春秋。
又
寓意
炙手無人傍屋頭,蕭蕭?雨?梧楸。誰憐季子敝貂裘。
顧我已無當世望,似君須向古人求。?寒松柏肯驚秋。
又
即事
畫隼江喜再遊。老魚跳檻識清謳。流年未肯付東流。
?菊籬邊無悵望,白雲?裡有?柔。挽回霜鬢莫教休。
又
端午
入袂輕風不破塵。玉簪犀璧醉佳辰。一番紅粉為誰新。
團扇只堪題往事,新絲那解系行人。酒闌滋味似殘春。
又
幾共?梨到雪霜。一經題品便生光。木奴何處避雌?。
北客有來初未識,南金無價喜新嘗。含滋嚼句齒牙香。
又
重陽
?菊花前斂翠蛾,?(????)花傳酒緩聲歌。柳枝團扇別離多。
擁髻淒涼論舊事,曾識織女度銀梭。當年今夕奈愁何。
又
山色侵?暈霞,湘川風靜吐寒花。遠林屋散尚啼鴉。
夢到故園多少路,酒醒南望隔天涯。月明千里照平沙。
又
方響
花滿銀塘水漫流。犀槌玉板奏涼州。順風環佩過秦樓。
遠漢碧云輕漠漠,今宵人在鵲橋頭。一聲敲徹絳河秋。
浣渓沙 蘇東坡
@ 浣溪沙 蘇軾
西塞山邊白鷺飛,散花洲外片帆微。
桃花流水厥魚肥。
自庇一身厥笠,相隨到處獄ェ衣。
斜風細雨不須歸。
西塞の山の辺りに上をシラサギが飛んでいる、花が散っている中州のむこう側に、船が帆を斜めに片寄らせて張っている。
桃の花びらは川の流れに流れていてその流れには魚が肥えている。(のどかな風景です)。
自らの身に纏っているのは青い編み笠だ、それとともにくるのは草の葉で作った緑のミノだ。
斜めに吹き付ける風や細か雨では、帰るには及ばない。
浣渓沙
西塞 山邊 白鷺(はくろ) 飛び,
散花 洲 外 片帆(へんぱん) 微(かす)かなり。
桃花 流水 厥魚(けつぎょ) 肥ゆ。
自ら一身を庇(かば)ふ き厥笠(けつりゅう),
到る處に相ひ隨(したが)ふ 香iあを)き蓑衣(さい)。
斜風 細雨 歸るを 須(もち)ゐず。
<訳注解説>
浣渓沙:
この作品は、
唐・張志和
『漁歌子』
西塞山前白鷺飛,桃花流水魚肥。
笠,獄ェ衣,斜風細雨不須歸。
に基づいて作られた。
『漁歌子』の曲が伝わっていないので、『浣溪沙』に形を変えて歌ったと、序にある。「玄真子(=張志和)『漁父』(=漁歌子)詞極清麗,恨其曲度不傳,故加數語,令以『浣溪沙』歌之。」とその旨が述べられている。
柳宗元
『江雪』
千山鳥飛絶,萬徑人蹤滅。
孤舟簑笠翁,獨釣寒江雪。
劉長卿
『逢雪宿芙蓉山主人』
日暮蒼山遠,天寒白屋貧。
柴門聞犬吠,風雪夜歸人。
西塞山邊白鷺飛,散花洲外片帆微。
西塞山の辺りに流れている川の上をシラサギが飛び、長閑であり、花が散っている中州のむこう側には、船が帆を斜めに片寄らせて張っている。
西塞山:〔せいさいざん〕山の名。浙江省湖州市の南西にある。西のとりでの山の意。
白鷺:〔はくろ〕シラサギ。
散花洲:〔さんかしゅう〕花が散っている中州。
外:〜のむこう。
片帆:帆を斜めに片寄らせている。片方の帆。船が横風を受けて進めるように、帆を斜めに片寄らせて張ることを謂う。
微:かすかである。わずかである。
桃花流水厥魚肥。
桃の花びらが川の流れに流れていく(かのような桃花源を思わせる)川の流れには魚が肥えている(平安な環境である)。
桃花流水:桃の花びらが川の流れに流れていく。
李白に『山中問答』「
問余何意棲碧山,笑而不答心自閑。
桃花流水杳然去,別有天地非人間。
厥魚:〔けつぎょ〕けつ魚。春の魚。淡水の小魚。 江南の淡水魚。石桂魚。
自庇一身厥笠,相隨到處獄ェ衣。
自らの身には、青い編み笠を着け。 どこまでも草の葉で作った緑のミノは、ついてくる。
庇:〔ひ〕おおう。かばう。
一身:全身。
厥笠:青い編み笠。雨具でもある。 厥笠:〔じゃくりふ〕竹の皮で作った編み笠。
相隨:随っていく。 ・到處:いたるところで。どこでも。 ・獄ェ衣:緑のミノ。草葉で作った雨具。 ・蓑衣:〔さい〕みの。萱、菅、藁等の茎や葉を編んで作った雨具。
斜風細雨不須歸。
斜めに吹き付ける風や細かい雨(程度では)、帰るには及ばない。
斜風細雨:斜めに吹き付ける風と細かい雨。 *斜風や細雨程度では、ここの笠、獄ェ衣を着けた(水辺の仙人とも謂える漁父)は意に介することなく、自然にとけ込んだままに過ごしている。
不須:〜の必要がない。もちゐず。
A和孔密州五絶 東欄梨花
梨花淡白柳深青,柳絮飛時花滿城。
惆悵東欄一株雪,人生看得幾清明。
和孔密州 東欄梨花
昔から、早春の花といえば梅、赤いといえば牡丹、白い花は、雪と対にして梨の花が詠われます。蘇東坡は、中央官僚から左遷で、各地を副知事のような地方官で赴任した。春の梨の花を山東省の南東の中央部に位置する密州、諸城の知事と唱和した詠いました。
庭の梨花
A 和孔密州五絶
東欄梨花
梨花淡白柳深,柳絮飛時花滿城。
惆悵東欄一株雪,人生看得幾C明。
(孔宗翰・密州の知事の詩に答えて、調子を合わせて、五言絶句、『東側の欄干の梨の花』の詩を作る。)
ナシの花は淡い白さで輝き、ヤナギは濃い緑色になってきている、季節は柳絮が飛ぶ時期になって来て、ナシの花は街中に満ちている。
ところが、うらめしいことに、東側の廊下欄干の傍に、一株の雪のように白い花のかたまりがある。この人生、これから、どれほどの清明節を迎え、この白いナシの花を観賞する機会を持てるのであろうか。
孔密州の五絶に和す 東欄の梨花
梨花は 淡白 柳は 深,
柳絮 飛ぶ時 花 城に滿つ。
惆悵す 東欄 一株の雪,
人生 看得るは 幾C明。
<訳注解説>
和孔密州五絶 東欄梨花
(孔宗翰・密州の知事の詩に答えて、調子を合わせて、五言絶句、『東側の欄干の梨の花』の詩を作る。)
和:相手の詩に答えて調子を合わせて詩を作る。
孔:孔子の子孫という孔宗翰のことで作者・蘇軾の後任となった密州の知州(知事)。
密州:現・山東省の諸城。山東省東部の中央に位置する。
東欄:東側の欄干。 ・梨花:ナシの白い花。
梨花淡白柳深、柳絮飛時花滿城。
ナシの花は淡い白さで輝き、ヤナギは濃い緑色になってきている、季節は柳絮が飛ぶ時期になって来て、ナシの花は街中に満ちている。
淡白:淡い白さである。
深:濃い緑色をしている。
柳絮:〔りうじょ〕柳の花が咲いた後の風に舞う綿毛のある種子。風に従って動くものの譬喩。流離(さすら)うもの。政治的な節操もなく情況に流されて揺れ動く者
滿城:街中。街全体。(城郭都市の中国では)「城」は都市、街を指す。
惆悵東欄一株雪、人生看得幾C明。
ところが、うらめしいことに、東側の廊下欄干の傍に、一株の雪のように白い花のかたまりがある。この人生、これから、どれほどの清明節を迎え、この白いナシの花を観賞する機会を持てるのであろうか。
惆悵:〔ちうちょう〕うらみなげくさま。失意のさま。うれえ悲しむさま。うらめしい。うらみがましい。
雪:雪のように白いさま。前出・「梨花淡白柳深」の「淡白」でもある。
人生:人が生きていて。人が生まれてこのかた。
看得:見られる。
−得:動詞に附いて、動詞の表す内容の程度、結果、方法を表す。
幾:どれほど。何回。一桁の数を謂うことが多い。
C明:清明節のこと。三月節。二十四節気の一つで、新暦の四月五、六日ごろに該る。唐代以降,郊外に出かけて酒宴を開く,いわゆる踏青(とうせい)の行事が盛んになったのも,新鮮な緑へのあこがれのためである。清明節は,禁火のために冷食する寒食節の後に直接連続する祝日であり,早朝になると,人々は一斉に新しい火を起こした。
晩唐・韋莊 『C平樂』
春愁南陌。故國音書隔。細雨霏霏梨花白。燕拂畫簾金額。
盡日相望王孫,塵滿衣上涙痕。
誰向橋邊吹笛,駐馬西望消魂。
陸游『春晩懷山南』
梨花堆雪柳吹綿,常記梁州古驛前。
二十四年成昨夢,毎逢春晩即悽然。
晩唐・杜牧の『C明』
C明時節雨紛紛,路上行人欲斷魂。
借問酒家何處有,牧童遙指杏花村。
晩年の杜牧は清明を『春日茶山病不飮酒因呈賓客』
笙歌登畫船,十日C明前。
山秀白雲膩,溪光紅粉鮮。
欲開未開花,半陰半晴天。
誰知病太守,猶得作茶仙。
白居易『遊趙村杏花』
趙村紅杏毎年開,十五年來看幾迴。
七十三人難再到,今春來是別花來。
B春夜
春宵一刻直千金、花有清香月有陰。
歌管楼台声細細、鞦韆院落夜沈沈。
春夜
春宵一刻値千金,花有C香月有陰。
歌管樓臺聲細細,鞦韆院落夜沈沈。
春の夜はわずかな時間でも非常な価値があり、
花には清らかなかおりがあり、月はかげることがある。
歌声と管楽器の音色が、高殿から微かに聞こえてきて、
(昼間は、少女が乗ってにぎやかだった)ぶらんこのある中庭に、夜は静かに更けていく。
春夜
春宵 一刻 値(あたひ) 千金,
花に C香 有り 月に 陰(かげ) 有り。
歌管樓臺 聲(こゑ)細細(さいさい),
鞦韆(しうせん) 院落 夜 沈沈(ちんちん)。
訳注解説
春夜
『千家詩』では「春宵」ともする。
春宵:春の夜。「春夜一刻値千金」としないのは、発音の美しさの外に平仄が関係する。「宵」は○で、「夜」は●。ここは○とすべきところ。
一刻:わずかな時間。ひと時。
値:値打ちがある。価値がある。動詞。
千金:価値が非常に高い。李白の『寄遠』「相思千萬里,一書値千金。」に似た雰囲気。
花有:花に…がある。
C香:清らかなかおり。
月有:月に…がある。
陰:現代語では曇りの意で、同じく蘇軾の「水調歌頭」(明月幾時有)に「人有悲歡離合,月有陰晴圓缺,」とある。この場合の「月有陰…」は、「晴」の対で「くもり」の意になる。ただし、月の光による物の影(張學成)、とも見られる。
歌管:歌声と管楽器の音。歌と音楽。
樓臺:高い建物。たかどの。御殿。
聲:音声。音色。「聲」は、人間の声と限定はされない。字義は多義に亘る。ここでは、おと。
細細:ひそやかである。
鞦韆:ぶらんこ。子供の遊具ではなく、年若い女性が乗って遊ぶ華やいだ物。昼夜の対比の妙を詠っている。
院落:中庭。庭の周囲は、建物か垣になっている。閉鎖的な感じのする庭。
沈沈:〔古白話〕静かに時の過ぎるさま。
蘇東坡C
題西林壁 蘇軾
看成嶺側成峰,遠近高低各不同。
不識廬山真面目,只縁身在此山中。
西林の壁に題す
ざまに看れば嶺れいと成り 側かたはらよりは峰ほうと成る,
遠近 高低 各おのおの同じからず。
廬山ろざんの 真面目を 識しらざるは,
只ただ 身の 此この山中に在あるに 縁よる。
<訳注解説>
題西林壁
(西林寺の壁に詩を作って書く。)
題壁:詩を作って壁に書く。
西林:廬山の麓にある西林寺。第一聯では、離れて観察した廬山の様々な態様をいい、第二聯では、自分自身がその中に入ってしまうと、客観的な状況が把握できないことをいう。
看成嶺側成峰、遠近高低各不同。
(廬山は)横から見ると山脈状に連なった嶺々になり、わきから見ると一つだけ空に抜きん出た峰になり。 (嶺々の)遠近や高低といったものは、それぞれの(嶺)によって異なる。
眺める角度を変えると、姿が変わって見える。
:よこ。この「横」は、後出の「側」に対応して使われている。句中の対。
嶺:山脈。みね。「嶺」〔れい〕は、山脈状に続く山並みであるのに対して、「峰(峯)」〔ほう〕(一つだけ)とがって出た山のいただき。独秀峰。
側:かたわら。わき。そば。詩句の構成から見ると、「」とは異なった方向の意になる。
峰:みね。(一つだけ)とがって出た山のいただき。独秀峰。
遠近:遠い所と近い所。おちこち。
高低:物の高いことと、低いこと。
各:おのおの。
不同:同じではない。さまざまである。「各不同」を「無一同」ともする。
不識廬山真面目、只縁身在此山中。
廬山の本来の姿が分からないのは。 それはただ、自身が(廬山の)山の中にいることに因るのだ。
不識:分からない。(知識として)知らない。
廬山:〔ろざん〕江西省の九江市の南にある山塊。陶潛は南山と詠ったこともある。陶淵明の隠棲した近くにある山。。廬山地図。 ・真面目:そのものの本来の姿。真価。
只縁:ただ〜に基づく。ただ〜による。
身:自身。自分の体。
在:〜にある。〜にいる。
山中:山の中。転じて、その問題の渦中。ここでは、第一義的には廬山の山中のことになる。
蘇東坡は、晩年政争のために、海南島の役人に左遷流された。この作品はそれが赦されて、流謫の地から本土に還る際、海南島北部の澄邁駅にある通潮閣に上って詠じたものである。
・澄邁驛:海南島北部で海岸線より2キロメートル入り込んでいる。任地の?州と海口の間に位置する。
蘇東坡E澄邁驛通潮閣 二首
(一)
倦容愁聞歸路遙,眼明飛閣俯長橋。
貪看白鷺秋浦,不覺青林沒晩潮。
(二)
餘生欲老海南村,帝遣巫陽召我魂。
杳杳天低鶻沒處,青山一髮是中原。
D飮湖上初晴後雨
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紀元前5世紀ごろ、春秋時代の越の國の絶世の美女西施は、呉王夫差ととりこにした。その美貌に准えて西湖の美しさが詠われています。
晴れた日の湖は丹念に化粧をした艶やかさがあり、雨に薄く煙るさまは薄化粧の風情、なんとも洒落た表現力です。
蘇東坡 38歳の作(1075)
北宋の文人で、詩は宋代第一と称された。官僚。1036年(景祐三年)〜1101年(建中靖國元年)
D 飮湖上初晴後雨
水光瀲艶晴方好,山色空濛雨亦奇。
欲把西湖比西子,淡粧濃抹總相宜。
西湖 蘇堤
「西湖上で、酒盛りをしたら、初めのうちは晴れていたが、やがて雨が降ってきた。」
湖のさざ波のしきりに動く水面が輝きは、晴れわたった今こそ素晴しい。一方、薄ぼんやりと山を包んだ雨の景色も、また独特の趣がある。
もしこの西湖を古の美女西施(西子)に譬えてみるならば、薄化粧も濃い化粧も、どれもみな風情がある。
飮湖上初晴後雨
(杭州の西湖上で、酒盛りをしたら、初めのうちは晴れていたが、やがて雨が降ってきた。)
*杭州西湖上で、酒盛りをし、西湖の風光の麗しさと西施の美を比べて詠ったもの。清末、黄遵憲がこれに基づいて一連の作品を遺している。 ・飮湖上:杭州西湖上で、酒盛りをした。 ・初晴後雨:初めのうちは晴れていたが、やがて雨が降ってきた。「晴」「雨」は、動詞として使われている。
この詩、作品当時の蘇東坡は杭州の副知事を務めていた。酒に弱いながらも酒好きだった蘇東坡はこの詩にもあるように「湖上に飲す」とあるように船の上でほろ酔い気分になって詠んだものである。このころ、西湖は手入れもされず荒れ放題であった。後に蘇東坡は杭州の知事になり、西湖の大改修に取り組み、それが今も伝わる『蘇堤』である。蘇東坡に因んで名づけらたものである。「蘇堤」は、湖の南北、およそ3kmを結び、美しい西湖を楽しむ散策路として、今の世まで長く人々に親しまれている。
水光瀲艶晴方好、山色空濛雨亦奇。
湖の水面が輝き、さざ波のしきりに動くのは、晴れの時がちょうよい。
・水光:水面の輝き。 ・瀲:(れんえん;lian4yan4)さざ波のしきりに動くさま。水の溢れるさま。ここは、前者の意。 ・方:まさに。ちょうど。ここを「方好」(ちょうどよい)、とはせずに「偏好」(ひとえによい)とするのもある。平仄から謂うと、ここは○が来べきところで、「方」「偏」ともに適合している。山の色が霧雨が降って薄暗いさまでは、雨もまた独特の趣がある。 ・山色:山の色。 ・空濛:霧雨が降って薄暗いさま。唐・武元衡の『題嘉陵驛』に「悠悠風旆繞山川,山驛空濛雨作煙。路半嘉陵頭已白,蜀門西更上青天。」とある。 ・亦…もまた(同様に)。(晴れは、なかなか佳いものだが、雨)もまた同様に。 ・奇:めずらしい。独特の趣がある。
欲把西湖比西子、淡粧濃抹總相宜。
西湖を西施と比較しようとすれば。 ・欲:…をしようとする。『聯珠詩格』では「若」とする。「若」:もし。もしも。 ・把:〔古語・現代語〕…をもって。…を取って。本来は動詞で、「手に持つ」ということだが、介詞的な雰囲気が漂っている。「將+名詞」の場合の「將」に限りなく近い。「以」にも稍近い。 ・西湖:杭州にある風光明媚な湖で、西湖十景で有名。「斷橋殘雪」「蘇堤春曉」「雷峰夕照」「三潭印月」「雙峰插雲」「花港觀魚」「曲院風荷」「南屏晩鐘」「柳浪聞鶯」「平湖秋月」と、実に優雅な名の美しいところである。 ・比:〔古語・現代語〕くらべる。西湖、西施どちらも、「西」が附いていることから来る聯想もあろう。 ・西子:西施。春秋時代の越の國の美女。呉王夫差の愛妃。「西施捧心」「効顰」で有名。呉王夫差は、愛妃西施のために、ここ西湖畔の姑蘇山上に(姑)蘇台を築いた。
薄化粧も濃い化粧も、(それぞれが)全てぴったりとしている。 ・淡粧:淡い化粧。薄化粧。 ・濃抹:濃い化粧。「淡粧濃抹」は、西施の化粧のさまと、西湖の天候の変化を謂う。 ・總:すべて。総じて。 ・相宜:〔白話〕適当である。適合している。ふさわしい。
「湖上に飮み 初め晴れるも後に雨ふる」
水光 瀲艶【れんえん】として 晴れて方【まさ】に好し,
山色 空濛【くうもう】として 雨も 亦た 奇なり。
西湖を 把【と】って 西子に 比せんと欲せば,
淡粧 濃抹 總て 相い宜し。